
講 演
「私 の 野 球 観」
権藤 博
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権藤 博 Hiroshi Gondo 1938年12月 2日生 63歳 佐賀県出身 |
鳥栖高-ブリジストンタイヤを経て61年、中日に入団。 1年目に35勝を挙げ新人王、最多勝、沢村賞に輝く。 通算成績は210試合で82勝60敗 防御率2.69。 68年に引退後、中日、近鉄、ダイエー、横浜のコーチを歴任。 横浜の監督に昇格した98年に38年ぶりのリーグV、日本一を果たす。 2001年からスポーツ報知評論家として健筆を奮う。 |
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トレーナーの皆様、一年間ご苦労様でした。 野球を辞めて最近感じるのは、ユニフォームの魅力です。本当に面白かったんだなとつくづく感じています。特に監督をしていた時は、優勝までさせてもらったものですからコーチを辞めた時とは違った意味でくやしいし、ユニフォームを着てもう一度やりたい。グラウンドで人がやっているところを見てそう思っているところです。 メジャーではコーチにはまずテキストが渡されるんですが、その第一項目には“Don‘t over teach”と書いてあります。教えすぎてはだめですよ、プロは自主性でやるようにしなければだめですよということなんですが、頭では分っているのですがなかなか難しい。この事を再認識させられた出会いもありました。ベロビーチでの教育リーグの時でした。南米から来た選手に対して、往年の名選手デューク・スナイダーがスペシャルインストラクターとしてバッティングの指導をしていました。この選手にスナイダーはバッティングゲージの右のネットにボールが当たるようになったら自分を呼びにくるようにと言って向こうに行ってしまいました。その様子をじっと見ていたんですが、一生懸命その選手はやっているんですがうまくいかない。そのうちに私にその選手がどうしたらいいか聞いてきたものですから、もう少し体を残してこういう形で打ったら右のネットにボールが当たるんじゃないかとアドバイスしたんです。その通りにしたら、当然右のネットにボールが当たりだしたんです。それからその選手は喜んでスナイダーを呼びに行き、スナイダーの前で右のネットに打球を当ててみせました。その時にスナイダーは「誰に教えてもらった」と言ったんです。その選手は私に教えてもらったことをスナイダーに告げました。「OK」とスナイダーは言いその選手をかえしてから私を呼びました。「教えてくれるのはありがたいが、すぐ教えて上手くなったことはすぐ忘れてしまう。私は彼が自分で覚えるまでやらせようと思っているんだ。」彼にそう言われ、私はハッとしました。これが“Don‘t over teach”の真の意味だったのかと。これはなかなかできませんね。以来、この言葉はいつも私の頭の奥にありますから、私が監督になった時にはすぐにコーチを集めて言いました。「コーチは鏡になれ。鏡はペラペラ物は言わない。ペラペラ喋る前にじっと選手をみておきなさい。選手はどうやって投げているか、どうやって打っているか自分の姿は自分では分らない。だからコーチは選手を写す鏡になりなさい。選手をじっと見ていなさい。黒子に徹して選手の支えになりなさい」と。これをまずコーチに伝えました。そして夜間の練習は強制しないようにさせました。選手にはできるだけ昼間に練習をやってしまうようにさせ、それでもどうしても夜やりたいと言うならばやっても構わないことにしました。選手がコーチを呼びにくるまでは夜間の強制的な練習はやってはいけないと伝えました。ミーティングについても全員を集めてやることはしませんでした。聞いてない人がいると分っていて話をしても面白くないですから。たとえばピッチャーを10人集めてお前あそこを攻めろここを攻めろと指示しても、佐々木なんか全く関係ないわけです。佐々木にしてみればあそことかこことかに投げなくても、自分はストライクだけ取っていれば抑えられるわけです。では、佐々木だけミーティングに出なくていいかというとそうはいかないわけです。だから、一人づつミーティングはグラウンドでやるんです。ピッチングをしている後ろに行って「おい、お前の真直ぐだったら松井には通用しないよ。そこはボールだよ。」とか言いながらコミニケーションするわけです。ミーティングもやらない夜間練習もなしでマスコミの話題にもなりました。ついでに門限もなしで。(実際にはあったんですけど、チェックをしてないだけですが)あの大投手は門限のうちに帰ってきたことがなかったですよ。それでもちゃんとシーズンに合わせて時間を組んでいるんです。自分は何時に起きて午後8時30分頃に登板するために、それに合わせてキャンプの時期から練習しています。夜中の2〜3時に寝ないと11時頃に寝たのでは調子がでないと。彼はすごいです。キャンプ中は朝の散歩には出てくるんですが、その後はまた寝るんです。そして昼頃グラウンドに出てきて彼にとっての朝食を取るわけです。時間が彼の場合ずれていて、試合は6時に始まっても出番は8時30分位なので、それを自覚していてちゃんと調整しているんです。野茂の言う自己管理につながるわけです。 メジャーの選手たちは自分を持っていているというか、自分をアピールするというか、きっちりとプライドを持って自分のすることには妥協はしないですね。この辺のことを象徴するおもしろい話があります。まず、最後の4割打者、打撃の神様と言われたテッド・ウィリアムス。彼が3000本安打を打った時にスタンドは総立ちで大歓声が起きました。しかし、当のウィリアムスは何も応えない。その時、監督が、「お前ね、3000本安打を打ったんだから1回くらいスタンドのファンに応えてやれ」と言ったんですが、これに対する彼の答えが「神様は返事は書かんもんだ」だったんです。ファンがいくら拍手を送っても自分は神様なんだから返事はしない。そこで、しょうがなく監督がファンのために彼をレフトの守備位置につかしたそうです。そこでスタンドから万来の拍手を受けるんですが、ウィリアムスはただ淡々と守備について帰って来たそうです。もう一人はピート・ローズ。ある監督が「ピート、よく考えて打てよ。」と言ったそうなんです。するとピート・ローズは「私はそんな天才じゃないから“考えて”“打つ”なんて二つのことを同時にはできない。“考える”か“打つ”かどちらかしかできない。」と言ったそうです。それくらい彼らは自分のプレーにプライドを持っているんです。 これからの野球は自己管理です。自分でやっていく野球でやらされる野球ではない。実際に野球をやっているのは選手自身です。そしてそれを支えているのはトレーナーの皆さんなのです。これだけは言っておきたいことですが、今まで野球に関してバッティング、守備、走塁など実技については語り尽くされています。残るのはスピードとパワー、これを支えてくれるコンディショニングが重要になると思います。そのためには、トレーナーの権限が向上しなければなりません。アメリカの場合、故障者リストに入れるのはトレーナー権限でこれには監督・コーチも口を出せない。日本のプロ野球で一番遅れているのはトレーナーに権限を与えていないことです。まだ日本の場合には、トレーナーというとマッサージのスペシャリストぐらいの認識しかないようですが、コンディショニングの分野でどうやって選手の体をつくり上げていくかを担う重要な仕事になってくると思います。コンディショニングコーチ、トレーニングコーチ、トレーナーがうまく連携しながらこの分野を支えていってほしいものです。コンディショニングコーチ、トレーニングコーチはもっと鍛えたい、トレーナーはこれ以上やったら故障するといったところでぶつかり合うこともあるでしょうが、ディスカッションでお互いのキャッチボールをうまくやってほしい。どちらも目指している方向に間違いはないわけですから、逆に意見の違う二つの職種が存在する意義があるわけです。SONYの話にもどります。ある重役が私は会長とどうしても意見が合わないから会社を辞めたいと会長のところへいったそうなんですが、会長は「俺と意見が合わないからお前が必要なんだ。俺と同じ考えだったらお前なんかいらない。俺一人でやる。」そう言ったそうです。トレーナーとコンディショニングコーチ・トレーニングコーチは仲良くというよりもディスカッションしながら、どうやったら選手が伸びていくのかを考えていってほしい。これからの日本の野球で一番重要なポイントになると思います。 最後に私が監督として選手達に何を伝えたかったかについて述べます。それは技術ではなく戦い方です。「お前、こうやって戦うんだよ!」「いくんだよ!」「おまえしかいない!」選手に戦い方を教えたかったのです。マウンドに行って私は選手によく言うんです。「心配せんでもいい。打たれたらどうしようか、逆転されたらどうしようかとかは俺が考えることであって、お前は力があるからここに残ってここで天下をとっているんだ。やられたらやりかえせばいい」「お前たちは何千何万という選手を踏み台にしてプロに入ってきたんだ。中学、高校、大学、ノンプロでお前はライバル達を踏み潰してきたんだ。お前の足の下にはお前が踏み潰したやつらが一杯積み重なっている。そいつらのプライドを考えてくれ。こんな無様なピッチングをしたら、お前に踏み潰されたやつらのプライドはどうなるんだ。しかし、たとえここで打たれてもお前がりっぱな戦い方をすれば、踏み潰されたやつらも俺はあいつに負けたんならしょうがないと納得するだろう。だけど、無様な戦い方をしたらやつらのプライドはどうなるんだ。踏み台にしてきた者たちのプライドを傷つけるな。」そういう話をします。 とりとめのない話になりましたが、これからはコンディショニングの分野で皆さん達の力が重要になってきます。ぜひ、頑張って下さい。 |
