2025.09.19
こんにちは、育成S&C 兼 スカウティングパフォーマンスアナリストの 藤尾佳史です。
現代野球は、単なる技術や感覚に頼る時代から、科学的なデータと精密な分析に基づいた「データドリブン」の時代へと移行しつつあります。その最前線に位置する1つが、フォースプレート(VALD社)です。この機器は、地面反力という、アスリートのパフォーマンスの根幹をなす情報を数値化し、従来のトレーニングでは見えなかった部分を可視化します。

フォースプレートの活用は、まず、アスリートの現在の状態を正確に把握することから始まります。特に重要視されるのが、ジャンプや静的な姿勢から最大筋力を発揮するテストです。例えば、CMJ(カウンタームーブメントジャンプ)やIMTP(アイソメトリックミッドサイプル)は、フォースプレートを用いることで、単なるジャンプの高さや持ち上げた重量だけではない、より深いデータを提供します。
ここで鍵となる指標は、RFD(Rate of Force Development:フォース発生率)とPeak Force(最大フォース)です。Peak Forceはアスリートの最大筋力を示し、RFDは瞬間的に大きな力を生み出す能力、すなわち爆発力を示します。
野球において、このRFDは非常に重要です。投手がボールをリリースする瞬間、打者がバットを振り抜く瞬間、そして走者が一歩目を踏み出す瞬間、すべては短い時間でどれだけ大きな力を発揮できるかにかかっています。フォースプレートは、この一連の動作における力の「シェイプ」を捉え、理想的なパフォーマンスへのギャップを明確にします

下記レポートが示すように、IMTPデータは、オリンピックリフティングや短距離スプリント、ジャンプといった多岐にわたるパフォーマンスと強い相関関係を持ちます。これは、IMTPが身体の基本的な筋力と爆発力を包括的に評価できる汎用性の高いツールであることを意味します。
さらに、IMTPはテクニックが未熟なアスリートに対しても有効です。複雑な動作を伴うウェイトリフティングなどでは、不適切なフォームが正確な筋力評価を妨げることがありますが、静的なテストであるIMTPは、技術に左右されずにアスリートの真のポテンシャルを明らかにします。これにより、指導者は技術指導と並行して、筋力という土台を効率的に強化するトレーニングプログラムを組むことができます。

また、フォースプレートは、トレーニングのモニタリングにも不可欠な役割を果たします。プロ野球やプロサッカーのようなシーズンスポーツでは、毎週フォースプレートを用いたモニタリングが行われます。
トラップバージャンプなどのエクササイズを通じて得られるデータは、アスリートの神経系の疲労度を数値化します。前週のデータと比較し、数値が10%低下すれば「黄色信号」、20%低下すれば「赤信号」と判断され、疲労の蓄積が客観的に評価されます。この情報は、その日のトレーニングメニューを調整する重要な根拠となります。
例えば、疲労が蓄積している選手には、高負荷のトレーニングを避け、技術練習やリカバリートレーニングに切り替える判断ができます。これにより、オーバートレーニングによる怪我のリスクを最小限に抑え、シーズンを通して高いパフォーマンスを維持することが可能になります。

トレーニングプログラミングの観点から見ると、フォースプレートはVBT(速度ベーストレーニング)と組み合わせて使用することで、その真価を発揮します。VBTは、バーベルの挙上速度をリアルタイムで測定し、負荷を調整するトレーニング手法です。チームでの検証からは、最高速度とRFDは直接的な相関はないものの、最高のRFDを発揮するためのフォースのシェイプには密接な関係があります。
フォースプレートとVBTを組み合わせることで、「単に速く動かす」のではなく、「どのように速く動かすか」という質的な側面に焦点を当てたトレーニングが可能になります。これは、野球における体重移動、体の回転、バットスイングといった連動性のある動きの質を高める上で極めて重要です。

まとめると、フォースプレートは、アスリートのパフォーマンスを評価・モニタリング・最適化する上で欠かせないツールです。それは、従来のトレーニングでは見過ごされてきた、アスリートの身体能力の根幹をなす「力」を可視化します。
この科学的なアプローチは、選手個々の課題を明確にし、怪我を防ぎ、そして最終的にはパフォーマンスを最大限に引き出すための、データに基づいた確固たる指針を提供します。
最後までお付き合いありがとうございました。