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2026.03.16

【スポーツ科学】プロ野球界にもたらしたトレーニング革命。選手はなぜ「Wattbike」をこぐのか?

皆さんこんにちは、横浜DeNAベイスターズの 藤尾 佳史 です。

近年、プロ野球の春季キャンプやオフシーズンの自主トレのニュース映像で、選手たちが室内で「ごついエアロバイク」を全力でこいでいる姿をよく見かけませんか?

あのマシンの正体は「Wattbike(ワットバイク)。イギリスで開発されたスポーツ科学に基づく高機能なインドアバイクです。

かつて、日本のプロ野球界における下半身強化・体力作りの代名詞といえば、グラウンドやポール間を走り続ける「走り込み」でした。しかし現在、多くの球団やトップ選手がこのWattbikeを導入し、トレーニングの常識が大きく変わりつつあります。

なぜ、プロ野球選手たちはグラウンドを走るだけでなく、室内でペダルを回すようになったのでしょうか?今回は、野球界におけるWattbikeの活用法とその圧倒的なメリットについて紹介します。

 

1. ワットバイク(Wattbike)とは?普通のバイクとの違い

ワットバイクは、スポーツ科学者と英国自転車競技連盟が共同開発したトレーニングマシンです。フィットネスジムにある一般的なエアロバイクとの決定的な違いは、「出力(ワット数)」と「ペダリングの技術」を極めて高い精度で計測・分析できる点にあります。

空気抵抗と磁気抵抗を組み合わせることで実走に近い感覚を再現し、モニターには「今、どれだけのパワー(W)が出ているか」「左右の脚のバランスはどうなっているか」がリアルタイムで表示されます。つまり、自分の身体のエンジン性能を確認できるマシンになります。

 

2. プロ野球界がこぞって導入する3つの理由

野球というスポーツにおいて、なぜ自転車型のトレーニングマシンがこれほどまでに重宝されているのでしょうか。それには明確な科学的根拠があります。

理由①:関節への負担(着地衝撃)がゼロである

体重が90kg、100kgを超えるような大きなプロ野球選手が硬いグラウンドを走り込むと、膝や足首、腰には体重の何倍もの衝撃(地面反力)がかかります。これは疲労骨折や関節炎などの大きなケガのリスクとなります。 ワットバイクはサドルに体重を預けてこぐため、関節への衝撃が全くありません(オフ・フィート)。ケガのリスクを最小限に抑えながら、心肺機能や下半身の筋肉を限界まで追い込むことができるのです。

理由②:野球に必要な「無酸素パワー(瞬発力)」を的確に鍛えられる

長距離走は持久力(有酸素運動)を鍛えるには有効ですが、野球のプレー(投球、打撃、盗塁など)は「数秒間で爆発的なパワーを出す無酸素運動」の連続です。 ワットバイクには「6秒間テスト」という、数秒間だけ全力でペダルを回すメニューがあります。これにより、マラソン選手のような持久力ではなく、160km/hのボールを投げたり、ホームランを打つために必要な「一瞬の爆発力(速筋)」で鍛えることができます。

理由③:「身体の使い方」をデータで可視化できる

ワットバイクのモニターには「Polar View(ポーラービュー)」という、ペダリングの軌跡が図形で表示されます。「右脚ばかりで踏み込んでいる」「引き足が使えていない」といった身体のアンバランスさが一目で分かります。 野球は身体を捻る非対称な動きが多いため、バランスが崩れやすいスポーツです。このデータを見ることで、選手は下半身から生み出した力をロスなく伝える「キネティックチェーン(運動連鎖)」を修正し、パフォーマンス向上とケガ予防に繋げることができるのです。

  

3. 【ポジション別・目的別】具体的な活用法

実際の現場では、選手たちは以下の方法で活用しています。

投手(ピッチャー)の活用法

球速アップのためのピークパワー強化:短い秒数で最大出力を出すトレーニングを行い、マウンドでの爆発的な踏み込みの力を養います。トップ選手になると1,500W〜2,000Wという驚異的な数値を叩き出します。

登板翌日のリカバリー(疲労回復):先発ピッチャーが登板した翌日、心拍数を上げすぎない軽い負荷で20〜30分ペダルを回します(アクティブレスト)。これにより血流が促進され、肩や肘、全身の疲労物質を素早く除去することができます。

野手(バッター)の活用法

スイングスピードの向上:重いギアに設定し、全力でペダルをこぎ出す練習をします。これはバッターボックスでボールを捉える瞬間に、下半身から爆発的な力を生み出す動きと直結すると言われています。また軽いギアでは、守備などの反応速度を上げる取り組みにも活用できます。

試合前のウォーミングアップ:試合前に数分間こぐことで、関節に負担をかけずに体温と心拍数を上げ、一歩目のダッシュやフルスイングに備えた筋肉のスイッチを入れます。

リハビリ組の活用法

体力・心肺機能の維持:下半身にケガ(肉離れや捻挫など)をして走れない選手でも、ワットバイクなら患部に負担をかけずに心肺機能を維持できます。復帰までの期間を大幅に短縮し、復帰直後からトップパフォーマンスを発揮するための強力な武器となっています。 

                               トレーニングゾーン

  

4. アマチュア野球(高校・大学)への波及

近年、この「データ駆動型トレーニング」の波はプロ野球界にとどまらず、強豪と呼ばれる高校野球や大学野球のチームにも波及しています。

成長期にある高校生にとって、過度な走り込みによるケガ(シンスプリントなど)は選手生命を左右する問題です。甲子園常連校の中には、トレーニングルームに何台ものワットバイクを並べ、球速やスイングスピードとワット数の相関データを独自に分析して育成に役立てている学校も増えています。

                  下半身パワーとパフォーマンス(球速)の相関関係

 

まとめ:データが変える野球の未来

「気合いと根性でグラウンドを何十周も走る」というかつての美学は、スポーツ科学の発展とともに変わりつつあります。

現代のプロ野球選手たちがワットバイクのモニターとにらめっこしながら汗を流しているのは、決して楽をしているわけではありません。「いかにケガをせず、100%の力をグラウンドで発揮するか」を極限まで追求した結果なのです。

球場で信じられないようなスピードボールや特大のホームランを見たとき、「あの裏には、室内での過酷なワットバイク・トレーニングがあるんだな」と思い出すと、プロ野球観戦がさらに奥深く、楽しいものになるかもしれません。

 

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

投稿者 : trainer

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