2024.12.01
読売ジャイアンツの紙谷(かみや)と申します。
今年から読売ジャイアンツのトレーナーとして勤務させていただいております。
昨年までは、当HP上で各球団が投稿されている記事を拝見し、情報収集をしていた身でした。この度、読売ジャイアンツの一員として記事の投稿ができるのを光栄に思います!
そんな私が今回記事にさせていただく内容は、スポーツ障害の中でも頻繁にみられる腰の痛みについてです。野球をやっているすべての選手、監督コーチ、サポートしてくれている保護者の方に向けて、腰の怪我を少しでも防げるような記事にしていきたいと思います。
今この記事を読んでくださっている方の中にも、「スイングをした時に痛みが出た」「仕事中に重い荷物を持ち上げたときに抜ける感覚があった」など、一度は腰の痛みや違和感を経験したことがあるのではないでしょうか?
一般的には腰部痛と一括りにされていますが、様々な疾患があります。
・筋膜性腰痛症
・椎間関節障害
・神経根障害
・腰椎ヘルニア
・腰椎分離症 などなど…
軽度の場合は数日で改善されますが、重度の症状の場合、日常生活にも支障をきたすことがあり、半年以上痛みが続くことも考えられます。
高校球児の場合、半年間休むという事は、実質1年8か月しか野球に打ち込める期間がないという事になります。
野球という競技は高強度の回旋動作が多く、脊柱への負担が大きくなる為、プロ野球の現場でもよくみられる疾患です。
我々も腰の障害予防として、筋緊張の有無、胸郭や股関節周囲の可動性など、様々な視点をもって選手の身体評価を行いますが、その中でも私が大事にしている腰部の“安定性“と”呼吸“について、この記事を進めていきたいと思います。
人間の脊柱(脊骨)というのは、動かなければいけない関節(可動性)と、安定していなければいけない関節(安定性)が交互になっています。
構造上、腰部は安定的に働いていた方が身体のバランスが正常に保たれ、パフォーマンスを発揮しやすいと考えられます。言い返れば、腰椎の不安定性があることで怪我のリスクを高める事となります。
では、腰椎の安定性はどのような組織によって生み出されているでしょうか。
上部:横隔膜
下部:骨盤底筋
側部:腹横筋
後方:多裂筋
これらの組織(インナーユニット)の活動は腹腔内圧を上昇させ、腰椎や骨盤帯の安定性に関与しています。身体の中にコルセットを巻き、安定感を出してくれているようなイメージです!
腰痛改善には、マッサージやストレッチなどで筋緊張を改善すること以外にも、上記のインナーユニットを活性化させるような呼吸のエクササイズを行い、腰部の安定性を高めることも必要となります。
腰部の安定感を出すために大切になるのは、呼吸をする際に
「お腹を大きく膨らませる」「息を吐き切る」ことにあります。
「そんなの当たり前やー!」と聞こえてきそうですが…。実は現代の方々はデスクワークや長時間のスマホ操作などの影響から、肋骨や横隔膜(呼吸するための筋肉)が本来持っている動きをすることができず、肺に取り込める酸素の量が少ないと言われています。
また、肺に取り込める酸素の量が少なくなると腹腔内圧を高めることが出来なくなり、腰椎の安定性を保つことが難しくなってしまいます。
トレーニングへの感度が高い方であれば、パフォーマンス向上や腰痛の予防として胸郭の回旋エクササイズなどを行ったことがあると思います。ちなみに、胸郭が回旋運動を行うときは肋骨が外旋状態(開いた状態)になります。
上記の画像のように、しっかりとした呼吸(肋骨の内旋外旋)が出来ていれば、胸郭の回旋動作(肋骨の外旋動作)はスムーズに行えるのですが、常に肋骨が外旋状態(息を吐き切ることが少ない肋骨)のまま回旋動作(肋骨の外旋運動)を行うと外旋動作の過負荷となります。
これは肋骨の外旋状態→回旋動作による過度な外旋を強いられる形となり、身体にとっては負担となる動きとなる為、怪我のリスクが一気に高まります。
腹圧低下による腰部の不安定性以外にも、呼吸や肋骨の運動ができていない影響から、回旋動作の機能が低下し、腰部で体を捻じるよう無意識で代償してしまいます。腰椎は身体を捻じる機能をほとんど持っていないため負担が激増し腰部痛が発症するという流れです。
ジャイアンツでも、シーズン序盤にスイングをする際の腰痛に悩まされていた選手がいましたが、呼吸のエクササイズや肋骨の動きを改善することで、回旋動作への不安がなくなり、その後痛みが出ることなくシーズンの最後までプレーできたという事案がありました。
痛みがある=腰背部の筋緊張と考えてしまいがちですが、筋緊張を取りすぎると安定性が低下し、「腰が抜ける」様な感覚になることも想定されます。我々トレーナーは選手とコミュニケーションを取りながら、ベストなコンディショニングで試合に臨めるよう治療やトレーニングを処方していかなければなりません。
腰痛で悩まされている方は、この記事をきっかけに自分の呼吸はどうなっているかを確認してみて欲しいです。日常生活から気にかけてみると、意外と呼吸が浅いことを自覚する方が多いです。※私もその一人でした。
簡易的なチェックポイントをまとめてみましたので、皆さんも確認してみてください!
※鼻から3秒吸って10秒吐き切ります。
★吸うときのチェックポイント★
①肩がすくんでいないかどうか
②背中がそっていないかどうか
③お腹の側部に手を当て、お腹のふくらみを感じるかどうか
★吐くときのチェックポイント★
①最後まで吐き切った際に、肩回りに力が入っていないかどうか
②股関節にある骨の出っ張り(上前腸骨棘)から指一本分、内下方に親指を当て、吐き切った際にお腹の中の方で筋肉のもり上がりを感じるかどうか
2足歩行で歩いている限り、腰痛は切っても切り離せない関係ですが、選手のプロ野球人生に影響が及ばないように、選手が持っている身体の機能を最大限引き出し、パフォーマンスを高めることが出来るよう最大限サポートしていきたいです。
日々の現場の中でヒントになるような記事を発信していきますので、次回もお楽しみに!!!!