2025.06.28
横浜DeNAベイスターズに今年より入団した佐藤正裕(さとうまさひろ)と申します。
これまで、私は『膝前十字靭帯損傷』に関わる臨床研究に携わることが多かったので、今回は『野球』と『膝前十字靭帯損傷』について、疫学的視点と競技復帰について論文的考察を含めて書いてみようと思います。
※膝前十靭帯:ACL(anterior cruciate ligament)
そもそも野球に関するACL損傷の研究論文がどのくらいあるのかなー?という興味で『Pubmed(アメリカ国立医学図書館(NLM)が提供する医学研究データベース)』を検索してみたら、
『anterior cruciate ligament』のキーワード検索で、32,000件以上ヒットしますが、
『+ baseball』ですと、一気に60件となるんですね。(2025年6月現在)
だいぶ少ないです!
やっぱり野球では、『肩』や『肘』の傷害が多いですし、手術となるとトミージョン手術の研究論文が多いので、野球×膝(前十字靭帯損傷)はかなりマイナーな印象なんだなと思いますね。
一般的に、ACL損傷はどれくらいの頻度で発生するのか?
様々な競技での、1000AE(athlete-exposures)※による疫学研究をまとめた論文によれば、
0.022~0.191AE(athlete-exposure)とされています(Bram 2020, Am J Sports Med.)。
※1000AE:1000回あたりの競技試合/練習参加回数あたりの発生率
これってどういうことかというと、1名の選手が1000回の練習や試合に参加したら、0.02~0.2件くらい発生するということなんですね。
もっとわかりやすく例示してみると、もしチームに20名の選手がいたとして、50回練習や試合をしたら1000AEとなるので、発生率の高い競技種目(0.2件/1000AE)だったとしたら、そのチームが1年間に250回くらい練習や試合があれば必ず1名は発生するという計算になります。
発生率の高い競技種目として、サッカー、ハンドボール、バスケットボール、ラクロス、バレーボールが上位に挙げられます。野球はACL損傷は発生率の低い競技種目に分類されるので、上の説明よりは少ない発生率になります。
日本での報告では、学生競技となりますが、中学から高校の部活動におけるACL損傷発生数は年間でおおよそ3000件とされています(高橋 2015, 日本臨床スポーツ医学会誌)。
この論文の中で競技別受傷件数が示されており(下記図表)、野球は発生件数自体は男子学生で100件程度発生しておりますが、競技人口が多いので受傷率は低いことが示されています。

ACL損傷の受傷機転として、接触型(contact injury)と非接触型(non-contact injury)があります。
一般的には、接触型(30~40%)よりも非接触型(60~70%)の方が受傷機転として多いとされています。
野球ではどんな場面での受傷が多いでしょう?
論文的な報告がほとんどなかったので、これまでに下記のような症例を経験したなというものを載せてみます。
ACL損傷は、基本的には手術治療(ACL再建術)を選択することが多い傷害です。
再建術後によく問題となる以下の3点について、論文的に考察してみようと思います。
①いつ復帰できるのか?
→ 術後9ヶ月前後(6ヶ月~12か月)としている医療機関が多いです。一時期、非常に早い競技復帰を目指す風潮がありましたが、再発予防の観点から移植腱の靭帯化の期間や神経学的な回復の期間などの観点から術後9か月以降の復帰を推奨する報告が多くなっています。
②どのくらいの割合で復帰できるのか
→ システマティックレビュー論文によれば、術後にスポーツ参加できる割合は82%、元々の活動レベルのスポーツに復帰できた割合は63~83%、プロレベルで元々の活動レベルのスポーツに復帰できた割合は44%といった報告があります(Ardern 2011, Br J Sports Med.、Lai 2018, Br J Sports Med.)。
これを見ると、プロレベルのところで非常にハードルが高いことがわかります。
③再発はしないのか
→ ACL再建術後の再損傷には、手術した側をもう一度損傷してしまう同側損傷と、手術した反対側を損傷してしまう対側損傷があり、これらを合わせて再損傷といいます。
システマティックレビュー論文によれば、再損傷率は17.6%~20.4%(同側損傷5.8~7.9%、対側損傷11.8~12.5%)といった報告があります(Wright 2011, J Bone Joint Surg Am.、Magnussen 2015, J Bone Joint Surg Rev.)。
これは結構ショッキングな報告で、ACL再建術をした人の5~6名に1名は再損傷をするという結果となります。やや反対側の再損傷の方が多いというのも特徴になりますね。
では野球選手では、どんな臨床報告があるでしょう?
検索の結果、2つのプロ野球選手のACL再建術後の臨床報告がありましたので紹介します(Ericsson 2019, Orthop J Sports Med. 、Fabricant 2015 Arthroscopy より引用)。


今回、野球と前十字靭帯損傷について、論文的な情報を綴ってみました。
前十字靭帯損傷は、野球では発生率は多くない傷害ですが、発生すると選手の競技復帰までの期間が長くかかるものであります。
トレーナーとして、発生してしまった場合にしっかりと選手が安全にレベル高く競技復帰できるサポートをすることはもちろんですが、傷害発生の予防的にも身体機能や動作面、認知面などで日々取り組みができるといいですね。
何かしらの、参考になれば幸いです!