2025.11.08
こんにちは、育成S&C 兼 スカウティングパフォーマンスアナリストの 藤尾佳史です。
野球においてバットは、選手の技術とパワーをボールに伝える唯一の道具であり、その選択はパフォーマンスを大きく左右します。これまで多くの選手は、自身の「感覚」や「経験」、あるいは先輩やチームメイトからのアドバイス「知識」を頼りにバットを選んできました 。
しかし、その選択が本当に個々の選手に最適化されているかは、必ずしも明確ではありませんでした。この伝統的なアプローチに一石を投じるのが、2024年に「HITTERS HOUSE TOKYO」で紹介された、BPI(Balance Point Index)という革新的な指標です 。

BPIとは、バットの物理的特性を客観的に数値化するための指標であり、「重心」「重さ」「長さ」という3つの要素に優先順位を付けて算出されます 。最も重要視されるのは「重心」であり、このわずかな違いが選手の感覚に大きな影響を与えるとされています 。例えば、BPIの数値がわずか「2」違うだけで、選手の感じる振り心地は大きく変わると言われています 。
具体的な数値例として、MLB選手はBPI 78〜82が約70%、NPB選手の平均が84であるのに対し、大谷翔平選手のバットは92という高い数値を示します 。これは重心がバットの先端にあることを意味し、非常に高い技術がなければ扱うのが難しいバットであることを物語っています。


このBPIを用いたフィッティングプロセスは、極めて科学的かつ体系的です。まず、Baseball Performance Lab(BPL)にしかない専用の測定器を用いて、選手個々のスイング特性に合ったBPIを特定します 。この測定には約4万円の費用と、7本のバットの試打が必要です。特定されたBPIに基づき、最適なバット候補が選定され、選手は実際に試打を行います 。

試打の際、パフォーマンスは「Consistency(一貫性)」「Power(パワー)」「Subjective(主観)」という3つのシンプルな指標で評価されます。Consistencyは xwOBA(Weighted On-Base Average)を基にした打球の安定性、Powerは単打以外の長打力、そしてSubjectiveは一球ごとの選手の主観的な評価で構成されます。これらの評価は専用のソフトウェアで可視化され、客観的なデータと選手の感覚を統合して最適な一本を導き出します。

さらに、このプロセスではフィジカルデータも重要な役割を果たします。
Swing Catalyst のような打撃フォースプレートで地面反力を計測し、OBU/TPI でパワーを測定。加えて、Rapsodo や Hit Trax といった弾道測定器で打球の速度、角度、回転数などを詳細に分析します。これらの身体データと打球データを組み合わせることで、なぜそのバットが選手に合うのかを多角的に解明できるのです。
BPIを用いたフィッティングの効果は劇的で、平均で打球速度が時速5km向上し、中には最大で時速20kmも向上した事例があると言います。これは、単に道具を変えるというレベルではなく、選手のポテンシャルを根底から引き上げる革命的なアプローチと言えるでしょう。

バット選びが「神頼みや感覚」から脱却し、データに基づいた科学的アプローチへと進化することで、選手は自身のパフォーマンスを最大化するための新たな武器を手に入れることができます。小学生からプロまで、すべてのレベルの選手がこの恩恵を受けられるよう、今後の展開が期待されます。
最後までお付き合いありがとうございました。